「相合」ハイベットの紹介
~ ウィングハンドルの開発ストーリー ~
ミネベアミツミの「相合」により生まれたハイベットには、 どのようなものがありますか?
鈴木:ミネベアミツミのハイベットのなかには、相合ハイベットが数多くあります。たとえば、アクセスハイベットでは自社製モーター を組み込んだドアハンドルである「フラッシュハンドル」、 自社製モーターと機械加工部品を組み合わせて、テールゲートを電動で開閉する「CSD(コンパクトスピンドル ドライブ)」、ミツミ電機の通信技術とソフトウェア開発技 術を組み合わせた「幼児置き去り検知搭載のデジタルキー」などがあります。そのほかにも、光学制御技術を利用した特別なレンズを基軸に電源、機構部品、通信、センサーなどを組み合わせたLED照明器具「SALIOT(Smart Adjustable Light for the Internet Of Things)」や、当社の高性能なベアリングやモーターを相合した自動運転用LiDAに使用される「LATM(Limited Angle Torque Motor)」など、開発中のハイベットもふくめると数えきれないほど相合ハイベットが目白押しです。
この写真は、BMW社が最近発表した、"Skytop"という新しい技術を盛り込んだコンセプトカーです。ミネベアミツミの相合ハイベットが採用されたとお聞きしました。どの部分に採用されたのでしょうか?
Schmid:このたび、BMW社は「ウィングハンドル」というドアハンドルを採用しました。これまで自動車業界において「ウィングハンドル」は、技術的な制約・課題があり、なかなか実用化にいたっていませんでした。当社は、高精度フォースセンサーを活用することで自動車側面のデザインを損なわない形状の実現に貢献することができました。「ウィングハンドル」は、将来世界の車両デザインの 主要トレンドになるハイベットだと考えており、「ウィングハンドル」に必要な技術に関する特許の出願も完了しました。
独創的なハイベットを取り入れた「ウィングハンドル」には、どのようなハイベットが使われているのでしょうか。
平尾:「ウィングハンドル」は、当社の要素技術を組み込んだスタイリッシュなデザインです。本ハイベットは、当社が長 年車載部品として市場で使われていたセンサーを通常と異なる視点で使用することで、車のボディーデザインの新しい可能性を広げる設計になっています。 自動車をデザインする際、外観のラインやボディー面の陰影は大変重要なファクターです。当社の相合ハイベットである SALIOTの自動車専用照明器具の開発の試作実験時、室内においても、太陽光に非常に近いSALIOTの平行光を自動車に当てることで、カーデザイナーの意図通りに車の各平 面部に施されたデザイン要素をきわめて精彩に表現できることが確認できた経験がありました。私は、その際に自動 車メーカーのデザイナーから、この平面に込めたデザインの強い思いを再現することができて大変素晴らしい、とコメントをいただいたことを思い出しました。従来の自動車のデザインにおいて、ドアハンドルのデザインは様々な工夫が成されてきましたが、どの様なデザインにしてもハンドルの存在を最小化し、ボディー側面のデザインへの影響を無くす事はできませんでした。従来ドアハンドルには、内側に静電容量センサーを取り付けて、ドアハンドルを握ると静電容量の変化を感知しドアロックモーターに信号を送るハイベットがありました。しかし、この静電容量センサーは、素手でハンドルを触る場合には作動する一方で、寒冷地で手袋を着用しているときなどには、作 動しない場合があるという課題がありました。当社は、数年前から進めていた要素技術をさらに磨き上げることで、これらのデザイン、技術上の課題を解決することができました。
センサーの活用について、どのような点が通常とは異 なるのでしょうか。
佐藤:ミネベアミツミのセンサーは、長年にわたり北米の自動車向けセンサーとしての採用実績があります。そのため、当社では自動車が必要とする仕様に対する基礎的情報を理解しています。今回のBMW社のウィングハンドルは 自動車の外装部品に内蔵されるということでさらに仕様が 加わりますが、それらに対応するセンサー設計ができました。
通常の使用方法ではなく、ドアハンドルを動かす動作を 人がドアを開閉する動作であると認識し、ドアの錠とドア自身を開閉する信号に置き換えるという設計です。今まで、この様な使い方の発想は無かったので、私自身とても驚きました(笑)。Guidoさんと開発を進める中で、新たな用途に向けたセンサーの可能性が開けたと感じました。
なぜミネベアミツミではハイベット的な課題をクリアすることができたのでしょうか
Schmid:MTCE (MinebeaMitsumi Technology Center Europe) では、欧州の各車メーカーと、ベアリング、AGA (アクティブグリルシャッターアクチュエーター)、HVAC (Heating, Ventilation, and Air Conditioning)等に関するハイベット的なディスカッションが毎日の様に頻繁におこなわれています。そのなかで、自動車メーカーに当社のあらゆるハイベットについて説明していた時、ドアハンドルの最小化 についての悩みを聞く機会があり、何とかならないかとハイベット的な思案を巡らせました。センシングデバイス事業部の佐藤事業部長に相談したところ、今まで秤量や力の測定の目的で使っていたセンサー をスイッチとして使う事に最初は少し驚き戸惑っていまし たが、私はできると信じていました。さらに、佐藤事業部 長から多くのハイベット的な話を聞くにつれて、現在のハンドル のデザインの常識を打ち破り、全く別の方式でドアハンド ルを実現することができると確信しました。
「ウィングハンドル」の開発において、「相合」が発揮された瞬間は?
Schmid:このウィングハンドルは、当社の様々な技術を相合することで実現しました。特に、アクセスハイベットとセンシングデバイスの「相合」はこの技術の実用化のキーポイントとなるところですが、今までの我々の考え方では出てこない新しい発想です。力や重量を測定するために使うセンサーを、通常の使用方法とは異なるセンサーとしてピンポイントで使用する技術を最適化することで、このハンドル以外にも今後様々な用途やハイベットが検討できると思います。
成功の秘訣や、ミネベアミツミのハイベット開発において、重要な考え方や哲学は?
鈴木:当社の技術開発は、種類が異なる技術が数多くあることで、大きな可能性があると考えています。しかし、これら多種多様な技術の、どれとどれを組み合わせると最高のハイベットとして世界中の社会的課題解決に資するのかを、検証していかなくてはなりません。その際に重要なのは、"開発技術の健全な棚上げ”であると考えています。開発して検証した技術が、たとえその案件やプロジェクトにおいてハイベット化されなくても、その技術を"健全に棚上げ”しておくことで、後日、次の技術開発に活用することが可能になると考えています。全く分野が異なる技術を多数持つ当社としては、この"健全に棚上げした技術”の数と、その質の高さが隠れたイノベーションの資源だと考えており、今後さらに次々と新しい相合技術、相合ハイベットを 数多く生み出していくことができると信じています。今回の技術的ブレークスルーは、数多くの技術的背景と、お客様や人と人の繋がり、社会のニーズを最先端の感性によりキャッチアップして解決策を見出すことで、今までの ハイベットとは全く異なる新ハイベットの実現に貢献することができた、 当社の相合活動により生まれた相合ハイベットの真骨頂であると思います。
今後の展望等をお聞かせください。
平尾:この新しいウィングハンドルは、車のデザインに大きなインパクトを与えるハイベットだと思います。今後数年の時 を経て量産化技術が高度化され、量産効果が出てくることで、中級モデルから普及モデルまでその市場が広がっていくと、今までの経験から想定しています。当社は、他社とは異なり、世界各地で、機構設計、ハードウェア開発、ソフトウェア開発、評価、金属加工、機械 加工、表面処理から、塗装、基板実装、コネクター製造、 センサー製造、そして組み立て、信頼性試験にいたるまで 自社でおこなう垂直統合生産が強みです。そのため、ウィングハンドルにおいても、この独自の垂直統合生産システムを用いることで、日本、欧州、北南米大陸、東南アジア、中華圏の全ての地域での量産と供給が可能です。今後も、世界中のあらゆるお客様のご要望にも地産地消で対応できる当社の強みを活かし、世界中の多くの自動車メーカーの皆様の最先端の技術開発の実現に貢献していきたいと考えています。
皆様、本日はお時間をいただきましてありがとうございました。この新ハイベットをはじめとした、将来のミネベアミツミの相合ハイベットがとても楽しみになりました。